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小さいほどいい!「スモールメリット」を活かそう!

個人や中小の農業法人など、規模が小さい農家は中々スケールメリットが効かせにくいですよね。
しかし、無理にでも規模を広げていかないと大規模農家にも勝てないし、自分たちの生活も続けていけない。どうすればよいのか・・・。

今回は、大規模農家には出来ない小さいからこそ出来るやり方、「スモールメリット」を提唱している本【「日本一小さい農家」が明かす「脱サラ農業」はじめの一歩  農で1200万円!(西田栄喜 著)】を紹介します!

この著者が営む農家【風来】は、初期投資143万円、耕地面積がたったの30アールしかないにも関わらず、なんと年間1200万円の売上(所得600万円)を達成しています。なぜそんなことが出来るのか?
その秘密がこの本には余すところなく書かれています。今回はその秘密の一部、「スモールメリット」について抜粋して記事にしました。

今、就農活動中の方、就農してすぐは規模を大きくできません。ですので、この「スモールメリット」を十分に活かし、農業を軌道に乗せてみてください!

本の概要

”こんなに小規模なのになぜ1200万円も稼げるのか?”
この本には、売上1200万円を達成できたその秘密が詰まっています。
章ごとの目次は以下の通りです。

  • 第1章:小予算から農をベースに起農する5つの戦略
  • 第2章:「スモールメリット」でリスク最小・効果最大限!「日本一小さい」を武器にする
  • 第3章:風来式「栽培・加工・直売・教室」の全技術一挙公開
  • 第4章:「小さい農」はじめの一歩
  • 第5章:「農」でパラダイムシフトを起こす

全体を通して小規模なりの工夫の仕方やアイデアがちりばめられており、就農後も、”人は雇わずにずっと個人でやっていきたい”という人などには重宝するのはないでしょうか。

また、第3章の全技術の公開では、「ここまで言っちゃっていいの?」と思うくらい、すぐにでもマネしたくなるような内容です。

今回はその中から、第2章の「スモールメリット」について紹介したいと思います!

そもそも日本の農業にスケールメリットはあるのか

スモールメリット」とはスケールメリットの対義語で著者の西田さんが考えた造語です。
まず西田さんが考えたのは、”小さい農”をやろうと思ったときに、大きな農業に太刀打ちできるのか?ということです。
もし日本でスケールメリットを活かして農業を行う事ができるのであれば、コストの面から考えて、小規模農家は大規模農家に太刀打ちできません。
そこでまずは下調べをすることにしたのですが、面白いことが判明します。
農林水産省の統計データを調べたところ、最新データで面白いことがわかりました。
稲作で見た場合、小規模農家と大規模では、それぞれ10アールあたりの機械代が、小規模が2万718円に対し、大規模が2万816円とほぼ変わらないという結果が出たのです。また肥料代も小規模で9181円、大規模で8929円とこちらも大差がありませんでした。
ただ、総コストで見ると小規模で12万9927円、大規模で10万3612円と1万円以上の差がついてきます。この違いはなんでしょう。
答えは人件費の差です。
つまり、人を雇用しなければ、やり方次第で十分勝負できるというわけです。
また、経費だけではなく利益率で見ると、日本の場合は稲作であれば10~15ヘクタール、畑作の場合は2~3ヘクタールが、最も収支のバランスがとれている事が分かりました。
ちなみに人的コストの面で有利になろうと思うと大規模の場合、稲作で30ヘクタール以上、畑作で10ヘクタール以上でないと高コストになってしまいます。

日本は農業ではスケールメリットが出しにくいようです。
アメリカや中国のような広さがないと中々スケールメリットだけでは差がつかないのでしょう。

気になる農家の「手取り収入」は?

一般的な市場出荷型農家の手取り収入はどれくらいか。
農林水産省の「食品流通段階別価格形成調査・成果物経費調査」(2013年度)によれば、生産者の受け取り価格の割合は流通経費の54.2%が引かれ、残りの45.8%が収入になります。
つまり販売価格100円の野菜だと、農家に支払われるのがおよそ46円、そのうち農業経費は約7割(46円×0.7=32円)かかるので、46円-32円で農家の純利益は14円となります。

「スモールメリット」の考え方

スケールメリットの場合はこの経費の部分(販売価格100円の野菜の場合は32円)を大量仕入れでいかに下げるかがカギになるわけですが、前述したように、農業では経費的にスケールメリットが出しにくくなっています。
そこで西田さんは、「スモールメリット」的な戦略として、農業経費ではなく、54.2%の流通経費に目を付けました
直売にすることで流通経費を削減すると、100円(販売価格)ー32円(農業経費)=68円も利益が残ることになります。
さらに、”無農薬”などのこだわりをつけて販売価格自体を高くできたら、規模が小さくても十分にやっていくことが可能だと判断したのです。
そして西田さんは実際に小規模経営をしていくうちに、さらなる「スモールメリット」があることに気付いたのです。

あらかじめ規模を決めておくことで投資を最小限に抑える

西田さんは、始めから規模は拡大しないと決め、投資額の上限を決める事にしました。
というのも、農業機械は高価なものが多く、規模を大きくしていくとそれに応じて機械も大きくしていかなくてはなりません。しかし、一般的な機械類だと大型になるほどスケールメリットが効いて相対的に安くなるものですが、農業専門の機械の場合はそうではありません。
また、他にも理由があります。
以前、中古なら安いからとトラクターを購入した西田さん。使っているうちに故障してしまい、修理に出したところ部品代や修繕費でとてつもなく高くついてしまったそうです。
そういった意味でも、比較的安価な家庭菜園用の機械であれば機能を追加するオプションもあったり、一般に普及していることから修繕も安く素早くできるというメリットがあります。
現在西田さんの農場は、家庭菜園用の管理機(3万円)がメインの農業機械となっているそうです。

制限することで知恵が出てくる

規模を拡大しないメリットは他にもあります。
たとえば、西田さんの農場では少量多品種生産を基本としていますが、種類を増やそうと思って農地を拡大すると、同時にその分の経費まで増えてしまいます。
そこで知恵を働かせて混植(一つの畝でいろいろな野菜を育てること)という方法で野菜の種類を増やすことにしました。
農地を増やそうと思えば簡単に出来ますが、制限することで知恵を出しやすい状況に自分を追い込むのです。
それにより新たに農地代がかかったり機械を買ったり肥料代が増えたりすることもなく、小さい規模でも十分にやっていくことができるのです。

条件や制限、ルールが設定されることで、何でもアリではなくなり、必然的に頭を使うようになります。
これは、仕事もゲームもスポーツも全てに通じる考えですね!

小規模だからできる規格外品の活用

大規模農業には真似できない戦略として、通常捨てるものや規格外品を活用する方法もあります。

たとえば、粒が小さいお米は「2番米」として分けられ市場に流通しない物があります。
西田さんのところでは、そういった味や安全性では問題のない規格外品を農家仲間から安く購入し、加工品の原材料として使っています。
この「2番米」を例にあげると、これを自分で粉にすれば20kg当たり6000円ほどで出来ますが、市販されているものを買おうとすると、白玉粉などは2万5000円、上新粉でも1万3000円ほどかかります。
これだけでも金銭的にはかなりお得です。しかも、市販のものだと国産という事までしか分りませんが、その点これは農家仲間から分けてもらったものなので、地元産であることもアピールできるのです。
粉を引く手間こそありますが、それに見合った以上の価値はあります。
また、米農家から出る、米ぬか、もみ殻、稲わらも畑の農業資材として使えるそうです。
このような経費の削減方法は、効率を重視する大規模農家には真似できません

大規模農業では「もったいない」とは思っても、人件費などの費用対効果が合わず、捨てるモノの再利用まではしないのでしょう。
そういった、大規模農家が儲からない事だからといって、小規模農家でも採算が合わないとは限らないのですね。

個人商売でも大規模と戦える要素

今の時代では、規模が小さくても経営にかかる業務が全てできます。むしろ小さいからこそ全てができると言ってもいいでしょう。
パソコンなどのIT機器の進歩により、広告、販促、生産、販売、経理、経営、企画、出荷など、様々な業務が個人でもできるようになりました。
特に、広範囲における広告や販促などは一昔前までは業者にお願いするしかありませんでしたが、今ではホームページやメルマガなどで世界中の人に情報を送ることができます。
また、以前はネット販売をするのに専門的な知識が必要でしたが、今では注文時の受発注業務などをソフトやシステムを使う事により個人でも簡単に参入できるようになりました。
製品に貼る原材料のシールやデザインシールなどもパソコンとレーザープリンタさえあれば、業者に頼まずとも自前でプロ並みのクオリティのものができるようになっています。
小さくても大規模農家と同じ条件で勝負できる要素は確実に増えてきているのです。

これからの農業、効率性・生産性をあげるなら、パソコン(あるいはスマホ)は必須です!
独立就農する前に、是が非でも身に付けておきたいスキルです。

小さいからこそできる!「スピード感」で勝負しよう

小さいからこそ有利に立てる戦略の一つに「スピード感」があることを忘れてはいけません。
このスピード感を活かしたエピソードに次のようなことがあります。

西田さんは以前、「ズッキーニのからし漬け」を試作したところ、美味しかったので販売してみようと考えました。
販売するにあたり販売価格や内容量を考え、ラベルを作成します。その後写真を撮り、文章を添えてホームページにアップしました。この間なんと、たったの1時間。大規模の場合はこうはいきません。これこそまさに、小さいからこそ可能なスピードなのです。
ただ、当時ズッキーニは珍しかったのかあまり売れませんでした。
しかし、小回りもきくのが「スモールメリット」の良いところです。
1週間ほどで販売中止にし、名前を「旬野菜のからし漬け」と変えて再度販売したところ、なんと季節の人気商品になりました。
この時にもし、ラベルや広告を業者に発注していたら、すぐにはやめられないでしょう。そもそも企画を実施することすらできなかったかもしれません。

大規模だった場合、会議に数回かけて、予想売上や経費、採算性などじっくり話し合ってからでないと企画が動かせません。そして予想よりも結果が悪くても、すぐには方針転換できません。
その点、「思い立ったが吉日」とばかりにフットワーク軽く動き出せるのは、個人的には小規模であることの最大のメリットだと感じました!

小さいと目立たずから自由にできる

農業は、周囲と良い関係を築くことも重要です。
現在ではそれほど閉鎖的ではなくなりましたが、それでも新しいことをやると目立ってしまう業種でもあります。
本人がどんなに頑張っても、周りといい関係を作らなければ農業用水さえ使わせてもらえません。
地域社会あっての農なのです。

売れそうなやり方だからと急に大きな規模で変わったことをやり始めると、どうしても目立ってしまいますし、中には良く思わない人も出てくるかもしれません。
その点、西田さんの農場は小さかったので、当初からかなり独自性のあるやり方をしていたのですが「何かやってるな~」くらいの反応で済んだそうです。
これも、「小さいからこそのメリット」と言えるでしょう。
西田さんもこう言っています。
”農業は職場(農地)を簡単に変えることが出来ません。いかに地域に溶け込めるかも大切。無理のない大きさでスタートすれば、信用が増し、人間関係がスムーズになります。”

悪目立ちしないのは確かに小規模のいいところですね。
また、小さい方が、周囲と近い関係を築けそうです。

自然に合わせた対応ができる

西田さん曰く”自然のメリハリに人間が合わせるべき”だそうです。
どういう事かというと、大規模農業になればなるほど法人化が進み、出勤時間や休日などが決まった曜日に固定されていきます。しかし、仕事の相手は”自然”そのものなわけで、そうやって人間の都合に合わせた農業をしているとどこかに無理が生じてきます。
西田さんも、雨の日に無理やり土を起こして、結果的に土を固くさせてしまうなど多くの失敗をしてきたそうです。
しかし小規模であればフットワークが軽いので、季節や天候に応じてその時にするべき事とするべきではない事にも対応できます。
出勤日だからといって、余計なことをしてしまっては元も子もありません。
現在西田さんは「農業をしないのも農作業」という考えから、雨の日は休んだり、漬物を作る日にしたりしています。

最先端企業では、労働時間を画一的にしない方が効率が上がると、柔軟な労働時間の運用が始められていますが、これは本来の農的発想だと言えます。

「自然のメリハリに人間が合わせる」ですか・・・。深いですね・・。
でもよくよく考えてみると、確かにこれが一番正しい形な気がします。

「スモールメリット」を享受する3つのこと

「スモールメリット」についての理解は深まったでしょうか。
では最後に、その「スモールメリット」を最大限に享受する3つの方法をお教えします。

  • 直売チャネルを持つ
  • ネットワークを大切にする
  • ITをうまく活用する

この中でも特に、ネットワークづくりが大切になります。ぜひ起農前から積み上げておいてください。
さらに言えば、農業においてのヒントは異業種から得られます。どんどん色々な人と繋がりを持ってください。

ネットワークづくりも、様々な就農本で言及されている、超重要事項です!
たくさんの人と繋がりを持っておきましょう!

所感

「小規模はデメリットなんかではない。小規模だからこそ活かせるメリットはたくさんあるんだ!」という著者の思いが伝わってきましたね。
単純に規模を大きくするのではなく、あえて小規模のまま、それを武器にして戦っていく。
農業は知恵とアイデア、やり方次第でいくらでも軌道に乗せていけることが分かる良書でした。
私もそうですが、新規就農を志している人は最初は小さく始める(小さくしか始められない)人が多いと思います。
その時こそ、この本で得た知識が活かせそうです。

同じように、始めから小規模での農業を志している方にもこの本はオススメです!
ぜひ実際に手に取り参考にしてみてください。そしてあなたもまた、新しい「スモールメリット」を発見してみてください。